ハルト

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「ハルトくん、またお店に遊びにおいで。今度またゆっくり話そう。それから今日おにいちゃんと約束したこと、絶対だよ」  ハルトはパッと顔を明るくすると、大きくうなずいた。 「あら、ハルちゃん、約束ってなんや?」  そう訊ねる中村さんに、直哉は満面の笑みで答えた。 「内緒ですよ。じゃあねハルトくん、おやすみ」 「おやすみなさい、きぬがわさん」  俺たちは口々に「ありがとうございました」といって、もう一度中村さんに会釈をした。ハルトの家の重い玄関の扉を押し開け、なんとなく後ろ髪を引かれながら、その場を後にした。  帰りは、直哉と自転車で二人乗りをして帰った。荷台に乗った直哉は、時々小さくため息をつくだけで、何もしゃべらなかった。途中、人目も憚らず俺の腰に腕を回し、背中に顔をうずめてしがみついてくる。何度か鼻をすすっていたし、背中が少し湿っていたので、直哉は泣いていたのかもしれない。  家に帰ってからは、直哉は何もなかったように元気に振舞ったが、ふとした時に暗い顔で考えこんだりする。やっぱりハルトのことが気がかりになっているのかもしれない。作り置きしておいた唐揚げを二人で食べて、一緒にシャワーを浴び、少しゲームをしてからベッドに入った。俺はどこか元気のない恋人をそっと優しく抱きしめ、その日あった出来事を思い返しながら眠りについた。
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