ハルト

16/66
82人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ
 次の日の日曜日も、直哉と一緒に古本屋のバイトがあった。朝九時半から午後三時までのシフト。店へ向かう道のりで直哉がいう。 「昨日のことを気にして、ハルトくんが来なくなったらどうしよう」 「昨日家に行ったとき、もう少しゆっくり話を聞いてあげればよかった」  時間が経つにつれ、直哉の中で気になることがどんどん膨らんでいっているみたいだった。俺はというと、黙って直哉の話をきいてやることくらいしかできなかった。少し元気のない恋人のために何かできないか考えてみたが、良いアイデアなんて浮かばない。彼の寂しそうな表情を見る度に、抱きしめてキスをするくらいしか、俺にはできないのである。  週末の古本屋は買取客が多くて忙しかったが、時間の経つのが早く感じるのだけが救いだった。直哉は書籍の査定をしながら、一日中店の入り口ばかりを見ていた。俺も店先を掃除したり、風で絡まったのぼり旗をなおすふりをして、ハルトが来ないか気にしていたが、結局俺たちがあがる三時になっても、ハルトの姿は見えなかった。  ロッカールームでエプロンをはずす直哉の表情は浮かなかった。他に誰もいないのを確かめて、直哉の後ろから肩を抱いた。 「今日はきっと友達と遊びに行ってるんだろう。気にすることないよ」 「でも、週末はほとんど毎週来てたんだよ。あの子、本当に本が好きなんだ」  直哉の頬を挟んでキスをした。 「さあ、行こう。今日は俺がなんか作る。スーパーに寄って買い物して帰ろう」  恋人は浅くうなずくと、ぎゅっと俺の胸に抱きついてきた。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!