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裏口を出て、店の前に出てくると、見覚えのある少年が立っていた。母親らしき小柄な女性と手をつないでこちらを見ている。俺は、はやる気持ちで少し後ろを歩いていた直哉に駆け寄った。
「直哉!あの子が来てる!」
直哉ははっと顔を上げると、早歩きでその親子に近づいた。少年と手をつなぐ女性が深々と頭を下げる。
「昨日はこの子を家まで送り届けてくださったそうで、どうもありがとうございました。ご迷惑おかけして申し訳ございませんでした」
直哉は嬉しそうに笑いながら、首と手を横にふった。
「いえ、ぼくが勝手にやったことですから気にしないでください。それより、お母さんが来てくださるの、久しぶりですね。ハルトくんも今年四年生になるし、お兄ちゃんになっちゃったから、もうお母さんとは来ないのかと思ってました」
ハルトのお母さんは少し寂しそうな表情で首を横にふる。少し疲れているようだが、綺麗な顔立ちの女性だった。ハルトとよく似ていて、誰が見ても親子だとわかるほどである。
「いえ、もっとこの子の相手をしてやりたいんですけど、仕事が忙しくて……。この子いつもこの店に入り浸りでしょう。立ち読みばかりして、ご迷惑じゃないですか?」
直哉は腰をかがめると、母親によく似た少年の顔を覗きこんでいった。
「全然迷惑じゃないですよ。うちの店は立ち読み自由なんで。それに店員と一緒になって、いらっしゃいませっていってくれるもんね」
ハルトは少し頬を赤くして照れ笑いをした。恥ずかしそうに直哉を見上げる。
「きぬがわさん、今日はもうお仕事終わりですか?」
直哉は少年のサラサラの髪を撫でた。
「うん。今日は三時までなんだ。残念だけど、入れ違いになっちゃったね」
ハルトは直哉を見上げたまま「そっかー」といって、ぽかんと口を開けた。俺は直哉の背中をそっとつついた。
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