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「どっかその辺で、なんていうか、だべる?」
小学生の男の子を誘うのに、なんといえばいいのかわからなかったが、要はハルトを誘ってちょっと遊んでやるか?というようなことがいいたかった。俺がいいたいことをすぐに察した直哉は、パッと顔を明るくして、「いいの?」と訊いてきた。黙ってうなずくと、直哉は瞳を潤ませて俺を見つめた。そして腰をかがめてハルトの目の高さに合わせていう。
「ねえ、昨日の続きのお話しようか」
直哉の小さなお得意様は、満面の笑みで大きくうなずいた。
「うん。きぬがわさん、いいんですか?」
つま先だけでぴょんぴょんと跳ねるハルトを横目に、直哉は小柄な母親にいう。
「あのう、ハルトくんと少しお話してもいいですか?後でおうちまでお送りしますから」
ハルトのお母さんはびっくりしたような、困った顔で、小さく首を横にふった。
「いえ、昨日に引き続いて今日もそんなご迷惑を」
ハルトが母親の声を遮る。
「ぼく、きぬがわさんのおうちに行きたい。前にいってましたよね、たくさん本があるって」
ハルトのお母さんは、「こらっ」っといって、ハルトの腕を掴んだ。直哉が少し大きな声でいった。
「いいんです!昨日ぼくからいったことなんですよ。またゆっくりお話しようって。お母さんさえよければ、ぼくらは全然かまわないんです!」
ハルトは直哉の後ろに回りこんで、すっかりその気になっている。小柄な母親は随分と困っていた。
「でも今日は……」
「今日何かあるんですか?」
「特にないのですが……」
「じゃあ、お願いします。ぼくも約束しただけじゃ、気になって仕方がないので」
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