ハルト

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 実家の神奈川を離れ、高校の時の同級生、衣川直哉(きぬがわなおや)を追いかけて関西にある大学に進学してから一年が経った。直哉とは恋人同士になってからもうすぐ五ヶ月になる。片時も離れたくない俺たちの暮らしは、もはや同棲生活になっていた。ちょっとイイとこの子である直哉が借りてる部屋は、広くてリッチな1LDK。二人で住むには、十分すぎる広さだった。  直哉は『出品する』をクリックするといった。 「できた。あとは英語で使う、映画総合教材を探さなくちゃ。今出てるのは新品ばかりで少し高いんだけど、もう日にちがないから、それで手を打っちゃおうか」  手を打つなんて、まるでどこかの商売人みたいである。可愛らしい顔をしているくせに、直哉はわりとしっかり者なのだ。俺はなんでもどんぶり勘定なので、その辺のことは直哉に任せてあった。返事の代わりに、直哉の後ろ頭に鼻をうずめて、思い切り息を吸った。直哉がいきなり大きな声でいった。 「あっ!健人が欲しがってた、デウスのキャップ。めっちゃ安い。美品だって!売上金で買っちゃう?」  パソコンを覗き込んでいった。 「うーん、でも勿体無いからいいよ」  直哉は首をひねって俺の方を見ると、肩をすくめてにっこり笑った。 「もうポチっちゃった」 「ばか」
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