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「…って、はりきって来たけど…。なんだよこの人混みはよ…。」
海水浴場の浜辺に窮屈そうに並ぶパラソルと大人でも迷子になりそうな程の人混みを眺めながら、すでに疲れたような表情を浮かべ、憂真は大きくため息を出した。
「この中から知り合い探すのか?“急な計画で現地で…”て事にして。来れば一人や二人いるかと思ったけど…。」
そう言って、憂真はもう一度大きくため息を出す。
「いいよ。せっかく来たんだし…。二人だけでもおもいっきしさ楽しもうよ!」
そんなすっかりテンションが下がってしまった憂真を励ますように、ニコと笑いかけながら蒼依は言葉をかけた。
その体の下には、休憩スペースもままならない人混みの中、それでもなんとか場所を取り準備万端に荷物とパラソルを広げたシートが敷かれている。
「…そうだな。まあ、なんとか場所も取れた事だし。せっかくだ、二人で楽しむか。」
「うんうん。そうだよ!」
「よーし…。思いきり泳ぐぞっ!?」
「おっー!!」
自分の言葉で再び元気に戻った憂真の姿にホッとした様子で蒼依は強く頷くと。今度は優真と蒼依の二人で気合を入れるようにお互いに掛け声を掛け合った。
改めて気持ちが揃った憂真の言葉に、蒼依はさっそく泳ぐ準備をするため座っていたシートから立ち上がると、水着の上に羽織っていた上着を脱いだ。
「あっ…。」
ふいに、すでに準備万端の憂真が小さく声を出したのに気がつき、蒼依は不思議そうに優真の方へと振り向いた。
「…ん?どうかしたの?」
そんな蒼依の視線に憂真は慌てて自分の視線を逸らすように横を向く。
「い、いや…。その水着、なんかすごく泳ぎやすそうだなって思って…。お前によく似合ってると思うぜ…。ハハ…。」
そう言いながらも、どこか恥ずかしそうに憂真は横を向いたまま、遠慮がちに蒼依のスポーツビキニ仕様の水着姿を見ながら称賛の言葉をかける。
「そう?ありがとっ。私見かけによらず実は泳ぎ大得意なんだ☆ヘへ。」
そんな憂真の様子も気にしていない様子で嬉しそうに言葉を返す蒼依のいつも通りの反応に、憂真はなんだか遠慮していた自分がバカだったような気がして改めて蒼依に向き直るといつも通りに言葉を返した。
「ふっ。言うじゃねえか。じゃっ、沖まで競争でもするか?俺も泳ぎは得意なんだぜ。」
「いいよ!負けないから!」
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