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「…ふふ。憂真くんてば子供みたい。」
気持ちよさそうに自分の横で寝ている憂真を見つめると、蒼依は小さくひとり呟き微笑みを浮かべた。
二人の間に訪れた一時の安らぎの時間を満喫するように、蒼依は自分の五感で感じる海の青さや波の音に白い砂浜、海水浴を楽しんでいる人々の幸せそうな笑顔や笑い声を眺めていた。
そんな幸せな時を全身で感じていた時だった。
《キャー!?誰かっ!?》
「えっ?」
平和な浜を引き裂くような叫び声が、ふいに蒼依の耳に飛び込んできた。同時に浜が急に緊迫した空気に包まれる。
「誰か!?助けてください!?佑実が…娘が波に…!?」
「えっ?」
そんな異様な雰囲気の理由を確かめようと、叫び声が聞こえた方へ向き直る蒼依の視線の先で、取り乱して青い顔をした女の人が海に向かって叫んでいた。
その後ろには、半狂乱状態で今にも飛び込みそうなその女の人を、もう一人の女の人が必死で押さえている。
その視線の先の少し離れた海の上で乱れた白い波しぶきが上がっているのが見えた。
「大変っ!?早く助けなきゃ…!?」
自分の目で確認した緊迫の状態に、蒼依は羽織っていた上着を脱ぎ捨てると考える間もないくらいに急いで海に飛び込んでいた。
そんな蒼依の脱ぎ捨てた上着がおもいきり顔にぶつかり、熟睡していた憂真も驚いて飛び起きた。そして自分の眠りを妨げた物を確かめるように、起き上がった拍子にお腹に落ちた上着を持ち上げる。
「…?アイツの上着?」
急に起き上がって、まだハッキリしない頭でボーっと自分の手に持った上着を憂真が見つめていた時だった。
『…佑実!?ゆみいー!?誰か!?早く佑実をっ…!?』
『早く助けないと女の子が危ないぞ!?』
『ライフセーバーの人はまだなの!?』
騒々しい浜の様子に、憂真もようやく頭がはっきりしてきて、緊迫した人々の中にいた一人の人に話しかけた。
「どうかしたんですか?」
「それが女の子が溺れていて…。まだ助けが来ないようなのよ…。」
憂真の質問に、女の人も青い顔でオロオロした様子で答える。
「よしっ。俺が…」
その女の人の言葉で、一向に進んでいない様子の救助に憂真は自分が何とかしないといけないと思い立ち手早く体をほぐすように動かした。
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