0人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな憂真の様子に心臓マッサージをしながら横目で見ていたライフセーバーの男の人は、諦めたように再び口を開くと憂真に言い聞かせるように声をかけた。
「…仕方ない。一刻の猶予もないんだ。俺が人工呼吸をやろう。いいね?」
そう言って、ライフセーバーの男の人は心臓マッサージから手を離すと、蒼依の顎と鼻に手をかけ自分の唇を蒼依の唇に近づけていく。
憂真の目の前で蒼依とライフセーバーの男の人の唇が重なる一歩手前の所だった。憂真はライフセーバーの男の人を制止させるように慌てて大きな声を出した。
「ま、待ってください!?俺がやります!?」
そんな憂真の声にライフセーバーの男の人も寸前で蒼依の体から離れると頷きながら憂真に場所を譲った。
ライフセーバーの男の人の頷きに、憂真は改めて人工呼吸するための定位置に着くと気持ちを落ち着けるように一度短く深呼吸をする。そして息をいっぱい吸い込むと自分の唇と蒼依の唇を重ね蒼依の肺の中へ自分の息を送り込んだ。
ふいに、蒼依の体に軽い痙攣がはしり、はじかれたように一気に蒼依の口から海水が吐き出された。そしてずっと閉ざされていた瞳がフッと小さく開いた。
「んっ…。…憂真…くん…?」
おぼつかない眼差しで、それでもしっかり憂真の瞳を見つめながら蒼依は憂真の名前を呼ぶと横たわっていた砂浜の上からゆっくり体を起こした。
「私…どうして…。女の子を助けて…。それで…えっと…?」
まだ完全に戻っていない頭をなんとか働かせ、蒼依は自分の今の状態を思い出そうと俯いていた時だった。
「何やってんだよっ!!バカヤロー!!心配したんだぞ…!?」
憂真が蒼依に怒鳴りかけてきた。憂真からかけられた初めての怒鳴り声に蒼依はビクッと肩を揺らす。そして、怒られる覚悟で恐る恐る憂真の方へと振り向いた。ところが自分を睨む憂真の目には涙が滲んでいる。
蒼依の瞳に映った憂真の姿に、本当に心から自分を心配していた憂真の気持ちがヒシヒシと伝わってきて。蒼依も心から憂真に謝りの言葉を返した。
「憂真くん…。ごめんなさ…」
蒼依が謝りの言葉を最後まで言う前に、自分の小さな肩に上着がかけられたと思った次の瞬間、憂真の強い男の腕が蒼依の体を包み込んだ。
「よかった本当に…。お前が無事で…。」
蒼依の体を包み込みながら憂真はそう言うと、大切なものを守るようにさらに強く蒼依の体を抱きしめた。
最初のコメントを投稿しよう!