序章

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 うららかな日差しが、窓を通して室内へこぼれる。それは明るさと暖かさをもたらしてくれていた。ぱらり、とページをめくる音だけが聞こえる。ノイは先日やっと届いた本に心を奪われていた。遠い東の国の本は、ノイのいる国ではあまり出回っておらず、だからこそ、多少の無理をしてでも手に入れたかったものだった。まぁ、若干苦労しすぎた気もするのだが。大量の材料集めまではよかったものの、薬の調合は骨が折れた。何日も魔力を空にするのは体にも負担が大きく、疲れがみえた状態で納品に行ってしまったがゆえに、単純な睡眠薬に引っかかってしまったのは悔しかった。それに―――。ノイは本から一瞬視線を外し、窓際で椅子にもたれながら外を見て何か考え事をしているロートを見やる。あの夜以来、たまに考え事をして心ここにあらずになるロートが何を考えているかは、ノイには大体予想ができた。きっと、思い出しているのだろう。再び本に視線を戻したノイは、けれど本を読むのではなく、一年と少し前の、ある日を思い出していた。ロートと出会った、あの日を。
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