2人が本棚に入れています
本棚に追加
それから二ヵ月経って、結局永田は亡くなった。俺が葬式に行ったのは、永田を悼むというよりは、ミサさんとのエピソードに敬意を払うためと、ちょっとした野次馬根性だ。
そこで俺はミサさんの妹のミサキと知り合い、意気投合した。そして付き合い初めてそこそこの時が経ったとき、たまたま永田の話になった。
「でも、不思議な事もあるものだな。本当に、ミサさんは永田を助けたのかな」
「まさか、姉がアイツを助けるわけないじゃない」
まるで吐き捨てるようにミサキが言った。
「今だから言うけど、姉は自殺だったのよ。表向きは海の事故ってことになってるけど、本当は入水自殺」
「え……?」
俺は思わずミサキの顔を見据えた。ミサキは真正面をむいたまま、こっちを見もしなかった。
「姉は永田に暴力を振るわれていたの。それに耐えかねたのね。永田に殺されたような物だわ」
「え?」
あんな華奢(きゃしゃ)な女性にどうすれば暴力なんて振るえるのだろう。もういない奴だが、永田に怒りを感じた。
「永田は全身あちこち骨折して、内臓も傷んでいた。病院に運ばれてから二ヵ月、苦しんで、のたうち回って死んでいった。痛み止めだって、完全に痛みを消すことはできないから」
そこで、ミサキはニヤリと笑った。怒った顔よりも恐い笑顔があるのを、俺はそこで初めて知った。
「もし通報がなかったら、意識を失ったまま楽に死ねたのにね。それが二ヵ月も苦しむことになった。姉は永田を助けたんじゃない。呪ったのよ」
最初のコメントを投稿しよう!