194人が本棚に入れています
本棚に追加
それは僕ができなかったことだ。でもそんな質問に対して、ちょっとだけ視線を逸らして首をかしげ、
「う~ん、できないかも」
由佳らしくない、曖昧な返事をした。へえ、こんなに外連味ない子でもそう思うんだ、意外だな。
「プライド?」
「そうじゃない……そうじゃないけれど、女の子って、そういうことを憧れて待っているものじゃない? それで、好きになってくれたら嬉しくなって、もっと好きになってもらえるように頑張りたくなるんじゃないかな」
そういいながら僕をじっと見つめる眼差しは物言いたげだ。きっと彼女は僕に、女性の気もちをよく理解するようにと忠告しているんだと、僕はその時はそう思った。
確かに、もし昔の僕がそれを理解していれば、きっとあの恋愛は成就していたんじゃないだろうか、男子のほうからちゃんと伝えなければいけないのだということを。
今さら取り返しがつかないことだけれども、それだけはよくわかった。だから由佳にちょっとだけ打ち明けてもいいかなと思い、少しだけ僕自身の過去を話した。
「僕は、昔、好きな人がいたんだ……でも、女の子の気持ちを理解してあげられなかった気がするし、僕自身が意気地なしだったんだと思う」
由佳はじっと僕を見ている。機嫌を取るための相槌などするつもりもないらしい、ただ僕の話したいことを、黙って聞いてくれる、そんな雰囲気だった。
「だから、手の届かなくなった憧れとか、自分への失望とか、後悔とかいろんなものが混ざって、僕はいまだに身動きがとれないんだ」
僕は永井 由佳という女性が、僕が誰にも立ち入れさせたことのない自分の奥深い領域にも向き合ってくれる人だと信じたかった。
その僕の言葉を最後まで聞いた由佳は、ちょっとうつむいて、また考えるようにして、
「そうだったのかぁ~」
とため息混じりに呟いた。
その反応は、僕の言った意味をきっとわかっている、わかっているんだけれども、僕が思っていた受け止め方とは、ちょっと違った気がした。
そんな僕の告白に、『古代の夢』ダンジョンの寂し気でせつない音楽が妙にマッチしていた。由佳も同じ音楽が聴こえているんだろう、でもそれを由佳はどう感じているのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!