第三章 『女の子っていうものは』

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1  僕は女心っていうものがわからなかった。  だから、あんなに大切だと思ったものが今はとても遠いものになってしまったし、それが原因でまた別の人を傷つけてしまった。  僕はそれを、今でも後悔し続けている。  僕が中学一年生になった時のこと。それはまだ東京の中野に住んでいた頃だった。  小学校六年生の時に読んでみた海外の小説を和訳したものが面白かったので、僕はクラブ活動で読書クラブというものを選んだ。いかにも本を読むだけというイメージがあるせいかとても不人気で、僕のクラスからそのクラブに入ったのはたった二人だけだった。  僕と、もう一人は女の子だった。名前が『前原 雪那(まえはら ゆきな)』。雪のように色白な肌にぱっちりした目、深く黒い瞳。  その女の子は僕をみてちょっと驚いて自分の口を押さえた。 「男の子がこのクラブに入るなんて、意外ね」  と言ってから、少しだけ笑みを浮かべた。男子はスポーツ系のクラブが当たり前なんだろうか。  それから、たぶんクラブ活動は水曜日だったような気がするけれど、その課外活動の時間になると僕たちはお互い隣の机に座って自分の思い思いのものを読みながら、いろいろなおしゃべりをしていた。 「ねえ、この小説、読んだ?」 「うん、僕も読んだ。なんかすれ違いだったね」 「大人になると、みんな言いたいこと言ってはっきりしていそうなのにそうでもないんだね」 「でも、大人は子供が思っているほど大人じゃないって聞いたことあるよ」 「ふうん……じゃあ先生くらいの歳になってもテレビゲームやりたいとか思ったりするのかな?」 「こんど先生に訊いてみる?」 「えー、当たっていたら逆になんか怒られそう」  そんなふうに、他愛のない会話で盛り上がっていた。
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