第三章 『女の子っていうものは』

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 それまでは雪ちゃんのことをそんな風に意識したことがなかったけれど、キスされたことで僕と雪ちゃんが男女であるということをはじめて自覚してしまった。その一瞬の、目を閉じたときの彼女の長いまつ毛、僕に迫る赤い唇、そしてその温かさが、雪ちゃんが僕にとって特別な存在だということを認識させてしまったのだ。  以来、僕が雪ちゃんにそう思われていたことが気になって気になって仕方なかったし、恥ずかしくてまともに顔をみることができなくなってしまった。  そして彼女の隣に座ることすらできなくなった。  きっとその気持ちは雪ちゃんも一緒なんだろう、それ以来雪ちゃんは僕の隣の席のふたつ後ろに座るようになっていた。クラブの担当の先生が空気を察して「一緒に座ったら?」とか言ってくれていれば雪ちゃんは嫌だと言うはずはなかったと思うんだけど。  その時に僕は、近づきすぎた距離は良い関係を壊してしまうこともあるのだということを知った。仲の良い友達だったはずなのに、突然、何も話すことができなくなってしまった。  離れてしまった距離は縮まることなく、お別れになってしまった。  その二年後にクラス会で中野に行くことがあったけれど、彼女は欠席していて会うことがなかった。  そのとき、同じクラスの女子からこんなことを聞かされた。 「雪那ちゃん、新一君が転校してから、ずっと泣いていたんだよ」
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