第三章 『女の子っていうものは』

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 専門学校に入ってからの僕は福生から本郷へ通学していたし、今思えば福生と中野の距離は決して遠いところではない。  でも中学生の僕にとってはどうしようもないくらいに遠い場所に感じていて、そのときは雪ちゃんに会いに行こうなんて考えもしなかった。だから時々文通をしていたぐらいだった。  高校生になってから、彼女の手紙にはちょっといいなと思っている男の子がいて、でもその男の子が他の女の子と仲良くしているのは仕方ないのかな、という感じのことが書かれていた。  僕は彼女の手紙を見ながら精神的に僕よりもずっと年上な感じがしていた。だから僕は距離以上に自分がまだ子供すぎると思いうまく返事が書けなくて、だから手紙を書くことにさえ怖気づいてしまった。  そして手紙のやり取りもいつの間にか途切れてしまった。  今思うと、その瞬間の彼女のか細い声や、「ちゃん」まで声が出なかったのは、きっとすごく緊張していたからなんじゃないかと思う。  思えば思うほど、僕は彼女が離れ離れになってしまう人にファースト・キスをあげる覚悟をしていたということが、とても強い印象として残っていて、それが後悔することの理由になってしまった。
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