第三章 『女の子っていうものは』

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 僕は勇気を振りしぼり、雪ちゃんに声をかけた。 「久しぶり、誰か待っているの?」  その時の雪ちゃんは、僕を見上げて不思議そうな、そして寂しそうな表情をしたのを憶えている。  僕を待っていたに決まっている。なのに僕は、雪ちゃんが誰か他の人を待っていると思っているような聞き方をしていたのだ。だからそんな顔をしていたんだ。 「誰も、待っていないよ」  それが分からなかった僕は、雪ちゃんの本当の気持ちを汲み取ることがまるでできなかった。 「じゃあ、元気でね」  それが僕の発した最後の一言だった。そして雪ちゃんが一番言ってほしくないと思っている言葉に違いなかった。  本当に僕は意気地なしだ。福生に引っ越してからのこととか、今僕が思っていることとか、話したいことがいっぱいあったはずなのに、全然伝えることができなかった。
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