目覚め

4/14
前へ
/14ページ
次へ
 目の前には元凶ともいえるヤツがいる。  この部屋がすべてで、庭にさえほとんど出たことがない私に、どうしろというのか。  そんな時ですら、前世の記憶という情報が流れ続けていた。  流れ込む前世の記憶からわかることと言えば、良くも悪くもマイペースな少年だった。  ほぼ、少年だった頃の記憶しかない。 ゲームが好きで、飼っている犬が好きで、駆け回るのが好きで、兄弟に優秀な兄がいて、父も母も優しかったがいつからか、会話をすることがなくなっていた。  一人立ちをしてもかわらなかったようだったが、少年の頃の記憶よりも、それらの記憶は多くないということがわかる。  ひとつの意識に溶け込む中で、私と少年が対話をする瞬間があった。  これまで、大事に大事にされていた私を、少年はそれを違うと否定する。  本当の親にも会えず、1人部屋に籠り、外に出ることもままならない、それのどこが大事にされているのかと。 それを幸せだ。といえば、 ―――それは不幸だ。 と少年は言う。  とても悲しくて切ないけれど言い返すだけの気持ちはわかない。 ―――外の世界にどんなに楽しいことが満ち溢れているのか、知らないのだから無理もない。 と少年は言う。  少年の世界ではそうなのだろう。     
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加