第1章  夏の庭で

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パパにキスしちゃった。 庭で植物に水をやった後、横になって眠っていたパパに。大好きなパパ。 小鳥が見ていた? 遠くで蝉の鳴き声が聞こえたわ。 パパはメガネをかけたままで、じゃまなんだけど外すと起きちゃうから。 私のファーストキスの相手がパパだなんて知ったら、きっと喜ぶと思うのよ。 私は一人っ子だし、幼い頃にはよく膝の上で本を読んでもらっていたもの、違う? ・・・・・・・ 芝生の上でランチする学生達。食堂が狭いから、皆、教室や外でランチする。 ここにいると、時々思い出すことがあるの。 パパにキスした庭や、私がかぶっていた帽子、ブルーベリーの濃い紫色、庭には小さな池があって金魚が何匹か泳いでるのね。 ゆっくり動いて下から花をつつくのよ。 そうすると、ユラユラと花が遅れて揺れる、あの夏の庭・・・。 毎年、眩しい太陽が芝生に反射して白い光に変わる。 今年ももうすぐ、顔に手をあてるようなことがあるのだろうか。 夏の芝生は、短く刈り取られたようにペチャンコになるのよ。 皆がそこに座るから。 煉瓦造りの校舎の通路で、私はパパに似た顔の男とすれ違った。 一瞬、あの時に戻ったかのように頭の中で蝉の鳴き声がこだまする。 下から金魚につつかれたように頭と体がユラユラしていたんだと思う。 何かに誘導されるかのように振り返る。 どうやら、私は、その「パパ」の後を5~6歩、追っていたらしい。 パパが使っていた、トップノートがムスクの香りのするオーデコロンまでが同じだなんて。
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