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「みんな封が開いているな。さっき、中身も調べさせてもらった。お前、乱用しているだろう?」  それは、予想に反して柔らかい口調だった。 「どこか、体が悪いのか?」  腕を撫でられ、薬を奪われる。  加納は首を左右した。  いっても馬鹿にされるだけだ。  お前の勘違いだと呆れられるだけ。 「頭が痛いんじゃないのか?」  買いこんだ薬はすべて頭痛薬だ。  それを見れば、医学の知識がなくとも想像はついただろう。 「あんたの知ったことじゃないだろ」 「心配なんだ」  呆気に囚われていると、一村が背後から抱きしめてきた。  加納は抵抗もできず、ネクタイの縫い目を見つめた。 「心配なんだよ、加納」  腕が食い込んでくる。  加納は天井に顎を向けた。  聞いてくれるのだろうか?  笑わずに、彼は聞いてくれるのだろうか?  医師も投げ出した頭痛を、彼は受け止めてくれるというのか? 「医者に行ったんだけど、原因がわからなかったんだ」  一村が頷いたことで、肩に彼の頬が当たった。  加納は首を垂れ、相手の手に触れた。  肌の肌理を指で確かめていると、次第に落ち着いてきた。 「だから、二度と病院には行かないって決めた。無駄だし、金がもったいないだろ? でも、頭は痛い。それで、病院で貰った薬がなくなったから、市販のものを買いに行ったんだ」  耳元で秒針が刻まれる。  一村の腕時計だろう。  彼は、わかったと呟いた。
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