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 ぼんやりとした視界の中、黒色の帯が迫ってきた。  異様な事態に払いのけると、いきおいよく両眼を塞がれる。  人肌だと気づくのに数秒かかり、それが一村の手だと確信するのに、また数分費やした。  一村は加納の目を閉じさせたまま、上半身を起させて目を瞑るよう要求してきた。  風呂あがりの匂いに喉がひくひくと動いた。  開いた口が塞がらない。 「ルールは守らないとな」  再度、ネクタイで拘束され、加納は闇に包まれた。 「あんた、悪趣味だ。しろといわれれば、自分でするのに」  掴みかかろうとして避けられ、誰もいないベッドにうつ伏せに倒れた。 「おいおい、悪趣味はどっちだ」  背丈は加納の方が上なのに、軽々と逃げられる。 「むかつくんだよ、いちいち」 「じゃあ、殴ればいい」  挑発され、頭に血が上ったが、どこへ手を出せばいいのか検討がつかず、加納はベッドに拳を下ろした。  くぐもった音が部屋の空気を裂き、いっそう苛立ちが込み上げてくる。   床が鳴いた。  体が強張る。  突然、仰向けに組みし抱かれて、腕と足の自由を奪われた。  暴れるが、一村の握力には勝てなかった。  抗えない恐怖にネクタイが塗れていく。  涙は頬を流れ、シーツへと染み込んでいった。  得体の知れない男を部屋に入れ、あまつさえ目隠しで出迎えるなど、到底、正常な神経のなせる業ではなかったのだ。  加納は後悔していた。  自分のどこかに隙があったと証明されたのだ。  最悪の自己分析だった。
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