79人が本棚に入れています
本棚に追加
ぼんやりとした視界の中、黒色の帯が迫ってきた。
異様な事態に払いのけると、いきおいよく両眼を塞がれる。
人肌だと気づくのに数秒かかり、それが一村の手だと確信するのに、また数分費やした。
一村は加納の目を閉じさせたまま、上半身を起させて目を瞑るよう要求してきた。
風呂あがりの匂いに喉がひくひくと動いた。
開いた口が塞がらない。
「ルールは守らないとな」
再度、ネクタイで拘束され、加納は闇に包まれた。
「あんた、悪趣味だ。しろといわれれば、自分でするのに」
掴みかかろうとして避けられ、誰もいないベッドにうつ伏せに倒れた。
「おいおい、悪趣味はどっちだ」
背丈は加納の方が上なのに、軽々と逃げられる。
「むかつくんだよ、いちいち」
「じゃあ、殴ればいい」
挑発され、頭に血が上ったが、どこへ手を出せばいいのか検討がつかず、加納はベッドに拳を下ろした。
くぐもった音が部屋の空気を裂き、いっそう苛立ちが込み上げてくる。
床が鳴いた。
体が強張る。
突然、仰向けに組みし抱かれて、腕と足の自由を奪われた。
暴れるが、一村の握力には勝てなかった。
抗えない恐怖にネクタイが塗れていく。
涙は頬を流れ、シーツへと染み込んでいった。
得体の知れない男を部屋に入れ、あまつさえ目隠しで出迎えるなど、到底、正常な神経のなせる業ではなかったのだ。
加納は後悔していた。
自分のどこかに隙があったと証明されたのだ。
最悪の自己分析だった。
最初のコメントを投稿しよう!