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 加納が平静さを取り戻すと、一村は明かりを点け、ベッドに腰をかけた。  顔は見られないが、茶色がかった髪や肩のラインがつぶさに目に入ってきた。  彼がティッシュを後手に持ったので、加納は起き上がって鼻をかんだ。 「腹痛や吐き気はある?」  一村の質問を肯定した。 「まずは薬を飲まないことだ。頭痛が起きたら、できるかぎり横になる。したくないことはしなくてもいい」  その後、加納は歯磨きをし、一村の隣で眠った。  月光の角度が変わり、部屋に光が満ちる。  一村は自分のネクタイで加納の目を隠し、正体が暴かれるのを防いだ。  加納は、もはや一村が知り合いであろうがなかろうが、どうでもよかった。  今この時、この場所で、彼がしてくれたことは、加納がもっとも欲しかったものだったからだ。  朝、目が覚めると視界は良好だった。  一村がネクタイをとったのだ。  泣き過ぎて頬が熱かった。  机にメモがあった。  それは、雑炊ができていることと、先に出社する侘びを教えてくれた。  達筆な文字を見つめる。  彼がここにいたことの証明。  目覚まし時計のアラームが鳴った。  講習へ行かなくてはいけない。  リュックに教材を詰め込み、加納は部屋を出た。
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