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「返事は来ているのか?」
尋ねると暫しの沈黙の後、「当たり前だ」という、吐き捨てられるような答えが返ってきた。
嘘だな。
加納はそんな人間じゃない。
げんに、あいつは中学を卒業してから、音沙汰なしではないか。
シャーペンが走る音は止まない。
だが、わずかに宏の肩が揺れたかと思うと、友人は袖で目元を拭った。
こいつはどうしてそう、自ら傷つきに行こうとするのだろう。
どけてしまえばいいのに。
なかったことにしてしまえば楽なのに。
求めるからだ。
求めるから惨めになるんだ。
力任せに肩を掴み、振り向かせる。
友人の目に涙が滲んでいた。
机の書きかけの手紙には、一人の人間がどうにかして感情を紡ごうとする痕があった。
なんだよ、と宏が睨みつけてくる。
虚勢だ。
本当は子供みたいに泣きじゃくりたいはずなのに。
だが、その虚勢が宏を支えているのは真実だ。
見つめていると、宏がジーンズのファスナーを開けた。
佐藤は友人の瞳を窺い、頭を埋めた。
また、太陽が昇ってくる。
朝が来たら、宏は再び手探りで先に進むだろう。
しかし、夜の内は佐藤を許してくれる。
佐藤を使って、自分を守ろうとしてくれる。
友人が深く息を吐く。
佐藤は喉奥へと圧迫物を押入れた。
もしも、闇がずっと続くなら、自分はひたすら、この男に尽くすだろう。
これは救いだ。
償いだ。
父親がしたことの償い。
「加納」
宏が呟く。
瞬間、闇に光が割り込むのを知った。
なぜ、加納が光なのだ。
なぜ、自分は闇なのだ。
くそっ。
どうして。
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