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加納が司書講習へと通学する大学は、夏季休暇を利用して建替えをしていた。
そのため、ペンキ臭がぶちまけられた酢のように漂っていた。
常に大型トラックが行きかい、ツナギを着た職人が図案を手に話し合いをしている。
午前7時45分に講義室に荷物を下ろし、加納は机に突っ伏した。
ウォークマンが耳元で怒鳴り散らしていた。
それでも、人間の音が聞こえてくる。
遠くで誰かが挨拶を交わし、誰かが右斜めで食べ物を咀嚼し、講義室のドアが幾度も開閉される。
加納は悪夢から逃れるように顔を歪ませた。
そこで頬が振動した。
のっそりと体を起し、バイブする携帯電話を掴んだ。
液晶画面に番号が提示されている。
電話だった。
話し声が漏れないようにと、加納は貴重品をリュックに戻し、講義室を出た。
電源ボタンを押して、耳元に携帯を密着させる。
相手は男だった。
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