第九章:もうひとつの嘘

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 式の時間が迫っていて、会場である体育館に近づくと、卒業生が外で待機していた。 「あー!みのりんだ!」 「みのりん!」  一部の児童が気づき、待機していた列から数人がこちらに向かって駆け出してくる。その場にいた先生の注意も聞かず、楠木は嬉しそうな顏をした大勢の児童たちに囲まれる。 「みんな、元気してた?今日はみんなが主役だよ」 「みのりん来てくれてありがとう!」 「ありがとう!」  楠木と児童の関係性が一瞬でわかる。きっと楠木は児童に愛された先生だったに違いない。 「おーい、おまえら、後にしろー」 「スーギー、ヤキモチだ!」  先ほどまでジャージでうろついていた杉浦も今日に限ってはスーツを着ていて、こちらに近づいて、児童に列へ戻るように促す。楠木に手を振って、児童たちは杉浦の言うことを素直に聞いた。 「大丈夫か?」 「うん。ここまで和田先生に案内してもらったのよ」  杉浦はちらりと自分を見た。 「悪いな」  軽く杉浦に頭を下げ、楠木に向き直って行く先を指差した。 「そろそろいきましょうか。来賓席はこちらです」 「ありがとうございます。ミツくん、あとでね」 「おう」  二人の間を流れる空気が一瞬にして、二人の世界を作ったのがわかった。長く信頼関係を築いたからこそ、二人の間には会話もいらないし、遮るものもない。  ただ、和田は気づいてしまった。二人の関係は、恋人や夫婦というよりも、血のつながりに似た、いわば家族のようなものであると。  二人は長い時間をかけて今の関係に落ち着いたのかもしれない。  楠木を来賓席に案内し、和田は受付に戻った。  受付してくれた五年生の児童も会場に向かわせ、佐藤と二人で受付で式が終わるのを待った。しばらくして、体育館から仰げば尊しが流れてくる。    その歌声に耳を傾けながら、高く晴れ渡った空を、和田は眩しそうに見上げていた。
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