第九章:もうひとつの嘘

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 式が終わりに近づき、和田は受付の備品を返却するために職員室を訪れていた。  その帰り際、廊下の壁にもたれている人影を見つけた。 「楠木……先生?」  淡いピンクのスーツに見覚えがあり、あわてて駆け寄ると、びっしりと汗をかいた楠木がぐったりとして壁にもたれていた。 「大丈夫ですか!?俺に捕まってください」 「和田……先生?」  その腕を掴むと、今にも膝から崩れそうだった。 「どうしたんです?」 「いえ、気分が悪くなって洗面所に向かうところで、児童が出てきてたので、こちらに」 「無理なさらないでください」  この姿を見られまいとしたのは、わかる。けれど、もはや一人で歩ける状態ではない。 「とにかく、保健室で少し休みましょう」 「でも……」 「ここで倒れたら、児童になんて言うんです?」  彼らは楠木の病状を知らない。卒業式に来てくれた楠木を見て安心しただろう。  もう会うことはないと言うのなら、最後まで元気な姿でいなくてはいけないはずだ。 「何してるんだ」
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