第九章:もうひとつの嘘

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 後ろから声をかけたのは杉浦だった。 「楠木先生、体調が悪くなったらしくて」  そのあとの杉浦の言葉に耳を疑った。 「早く教室に来い。児童にちゃんと挨拶しろ」 「杉浦先生、何言って……?」 「教頭には話を通してある。けじめをつけろ」 「こんな状態で、話せるわけないじゃないですか!何言ってるんですか」  支えている楠木の体は、こうして立っているのがやっとだ。そして、先程よりも、ぜえぜえと息も荒くなっている。 「ちゃんと見送りたいから卒業式に来たんじゃないのか?そんな体なら、来ないほうがよかった」 「先生、それは言いすぎじゃないですか!」 「…いいんで、す。そのとおり、なので…」  杉浦は、それだけ告げると、背を向けてその場を立ち去った。 「お迎えの方、呼びましょう?校門まで送りますから」 「すみません、何から何まで……」 「それにしても、あんな言い方……ひどいです」  杉浦の心無い言葉に、何よりも自分が腹を立てていた。 「いえ、彼らしいと、思いますよ」  あろうことか、楠木は笑っていた。 「だからってあんな……」 「彼は、私のために言ってくれてるんです。悔いがないようにって」  そう楠木に言われてしまえば、もう返す言葉がなかった。二人には二人にしかわからないことがある。それに対して自分は何か言える立場ではない。  ゆっくりとした足取りで、和田に支えられ、楠木は校舎を出た。
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