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後ろから声をかけたのは杉浦だった。
「楠木先生、体調が悪くなったらしくて」
そのあとの杉浦の言葉に耳を疑った。
「早く教室に来い。児童にちゃんと挨拶しろ」
「杉浦先生、何言って……?」
「教頭には話を通してある。けじめをつけろ」
「こんな状態で、話せるわけないじゃないですか!何言ってるんですか」
支えている楠木の体は、こうして立っているのがやっとだ。そして、先程よりも、ぜえぜえと息も荒くなっている。
「ちゃんと見送りたいから卒業式に来たんじゃないのか?そんな体なら、来ないほうがよかった」
「先生、それは言いすぎじゃないですか!」
「…いいんで、す。そのとおり、なので…」
杉浦は、それだけ告げると、背を向けてその場を立ち去った。
「お迎えの方、呼びましょう?校門まで送りますから」
「すみません、何から何まで……」
「それにしても、あんな言い方……ひどいです」
杉浦の心無い言葉に、何よりも自分が腹を立てていた。
「いえ、彼らしいと、思いますよ」
あろうことか、楠木は笑っていた。
「だからってあんな……」
「彼は、私のために言ってくれてるんです。悔いがないようにって」
そう楠木に言われてしまえば、もう返す言葉がなかった。二人には二人にしかわからないことがある。それに対して自分は何か言える立場ではない。
ゆっくりとした足取りで、和田に支えられ、楠木は校舎を出た。
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