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夕日が沈む頃には、あんなに賑やかだった学校が静寂に包まれてた。
片付けと残務に追われていた先生たちも、いつものように帰宅を始める。
ずっと職員室にいた和田は、隣の席の杉浦がいつまでたっても戻ってこないことが気になっていた。
あれから、楠木は児童に教室へ戻るように促し、その背を見送ったあとで、ようやく力が抜けたのか、その場に崩れた。
もう歩くどころか、自力で立ち上がることもできず、半ば担ぎ込まれるように車に載せられていったのが印象的だった。
意識を手放しそうになりながら楠木は、和田に「ミツくんをお願いします」と言い残し、車は走り去っていった。
自分の机で、和田はじっと考えていた。
見守り続けた児童も送り出し、楠木とも会うことがないかもしれない。今の杉浦に残されているものは、一体なんだろうか、と。
そして今の自分にできることは、なんだろうか、と。
空いたままの席を見つめながら、ため息をつくと、和田の背後から「鍵、閉めますよ」と用務員さんから声をかけられた。
「あの、杉浦先生は?」
「もう帰られましたよ」
「え……」
そういえば、鞄も靴もないことに気付き、職員室に立ち寄らずに帰ったのだとわかった。
何を話すわけでもないが、杉浦を待っていた自分は拍子抜けしてしまう。そうとわかれば、ここに残る理由もないと、和田も席を立った。
誰もいない学校は、ひっそりとしていて淋しげにみえた。
学校は児童の声が響いてこそ、学校なのだなとつくづく思う。
職員用下駄箱で靴をはきかえ、階段を歩いていると、植木の植え込みから、細く白い煙がのぼっているのが見えた。
――誰かいる?
それはタバコの煙と思われ、もしかして火の不始末か?と小走りに確認しに行くと、そこには意外な人物がベンチに座ってタバコを吸っていた。
「杉浦先生……?」
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