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「杉浦先生……」
スーツ姿で、空を見上げながら煙を吐いている杉浦が、ちらりとこちらを見た。
「あ」
「……ここ、禁煙だと思いますけど」
「細かいこと気にすんな」
「ていうか、先生、タバコ吸うんですね」
「んー。悪いことしたいときにな」
「知りませんでした……」
「肺がんにでもなんねーかなって思って」
その言葉に、思わず眉間に皺を寄せる。
「……冗談だって。本気にするなよ」
手元のタバコを取り出した携帯灰皿でもみ消している。その手つきは、慣れている手つきだった。
和田は、杉浦の隣に黙って座った。意外にも、杉浦は何も言わず、黙って遠くを見つめたままだった。
表通りの車の音がときどきする以外、まわりは静かだった。
だんだん足元に闇が落ちてきて、あたりが暗くなっていくのを感じる。
二人で黙って座ったまま、十分くらいが経過して、ようやく杉浦がひとこと、呟いた。
「ありがとな」
「何がです?」
「あいつの世話してくれて」
楠木のことだと、ようやくわかった。
「楠木先生は、本当に児童から慕われてたんですね」
「……まあな。俺なんかよりもずっとな」
「え……」
杉浦は、よっと立ち上がり、そのまま歩き始めた。
和田も後を追うように立ち上がり、その後ろをついていった。
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