第九章:もうひとつの嘘

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「杉浦先生……」  スーツ姿で、空を見上げながら煙を吐いている杉浦が、ちらりとこちらを見た。 「あ」 「……ここ、禁煙だと思いますけど」 「細かいこと気にすんな」 「ていうか、先生、タバコ吸うんですね」 「んー。悪いことしたいときにな」 「知りませんでした……」 「肺がんにでもなんねーかなって思って」  その言葉に、思わず眉間に皺を寄せる。 「……冗談だって。本気にするなよ」  手元のタバコを取り出した携帯灰皿でもみ消している。その手つきは、慣れている手つきだった。  和田は、杉浦の隣に黙って座った。意外にも、杉浦は何も言わず、黙って遠くを見つめたままだった。  表通りの車の音がときどきする以外、まわりは静かだった。  だんだん足元に闇が落ちてきて、あたりが暗くなっていくのを感じる。  二人で黙って座ったまま、十分くらいが経過して、ようやく杉浦がひとこと、呟いた。 「ありがとな」 「何がです?」 「あいつの世話してくれて」  楠木のことだと、ようやくわかった。 「楠木先生は、本当に児童から慕われてたんですね」 「……まあな。俺なんかよりもずっとな」 「え……」  杉浦は、よっと立ち上がり、そのまま歩き始めた。  和田も後を追うように立ち上がり、その後ろをついていった。
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