第九章:もうひとつの嘘

21/23
前へ
/160ページ
次へ
「杉浦先生」 「なーにー」 「これからどうするんですか」 「これから?帰るけど?一日スーツで疲れたわ。早くジャージに着替えてぇ 」 「そうじゃなくて!今日は卒業式ですよ」 「知ってるよ。春からのこと考えるのは明日からにしよーぜ」 「先生!」  とっさに杉浦の腕を掴んでいた。  杉浦は振り向かず、そのまま足を止めた。それは校門まであとわずか、の距離だった。 「……なんだよ」 「俺が、先生は恋人がいらっしゃるのに、俺とこういうことをするんですかって聞いたとき、先生は否定しませんでしたよね」  杉浦は何も応えなかった。 「すみません。楠木先生から聞いてしまったんです。もう恋人じゃないってこと」 「……そっか」 「そのとき、俺、先生は児童のために隠してるんだって思い込んでました」 「ははは。思い込んでたって、なんだよ」  杉浦が笑って、その肩が揺れた。 「もしかしたら、ですけど、先生、認めたくなかったんじゃないですか」 「は……?」  振り返った杉浦の顔は、小さく驚いていた。
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2005人が本棚に入れています
本棚に追加