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「本当に楠木先生のこと好きだったから、大切だったから、別れたことを認めたくなかったんじゃないですか」
「何言ってんだ。おまえ、いい加減にしろよ……!」
「楠木先生は新しい相手と新しい人生を歩み始めている」
杉浦の顔は一気にこわばった。
「先生は、彼女のことを応援してあげてるんでしょう?」
「してるよ!むしろ、あいつは俺のそばにいた頃よりも今のほうが幸せそうなんだ!だからちゃんと受け入れてるよ!」
「だったら、もう嘘なんてつかなくたっていいでしょう!」
杉浦は、和田の手を振り切った。
「ふざけんなよ。おまえは全然わかってねーよ!」
「何をですか!」
「確かに、最初はそうだった。別れたなんて言って、あいつが悪者になるのは嫌だったし、何より児童にあいつが嫌われるのは耐えられなかった。でも今はそうじゃない……そうじゃないんだ」
「そうじゃないって……?」
はぁ、と杉浦は溜息をついた。
「別れても、あいつのことは好きだった。忘れられなかった。部屋見たらわかるだろ?あいつのものが捨てられないくらいだよ。あの頃は、本当に未練と後悔しかなかった。あいつがいなくなって大切なものなんて、もう作らないと決めた。こんなにつらくなるくらいなら、誰も好きになるもんかって……」
杉浦は自分の頭をぐしゃぐしゃと掻いた。
「先生……」
「でも、また見つけちゃったんだよ……大切なものをさ。誰も好きにならないって決めてたのに、好きになってることに気づいて、俺は何してんだって」
「大切な、もの…」
「自分が望んでわざと中途半端にしてたくせに、なんとかしなくちゃなって思いながら、どっちも選べないでいたら、恋人いるのかって聞かれて、これは今まで自分にも周りにも嘘をついてきた罰なんだって、そう思ったら否定することができなかった」
「待って、ください……先生、それって」
和田は、杉浦に近寄る。
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