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「だから、俺は最低なんだよ……」
「違います。先生、俺も同じなんです。あんなに苦しい思いをしたのに、慰めてくれて優しくされて、立ち直るどころか、もう手放したくなくなって…」
「たっくん……」
「先生の好きな人は……誰なんです、か」
杉浦の両肩を掴み、その小柄な体を揺すった。
「誰って……」
「俺から言いましょうか?俺は大声で言えますよ」
「たっくん…」
「お願いです。ちゃんと、言って、くださ……い」
すがるように、頼むように、どうしてもその気持ちが知りたくて、杉浦の目を見つめた。
そんな自分を見て、穏やかに笑ってくれた。
「俺はたっくんのことが好き……になってた」
「先生……」
その体を引き寄せ力任せに抱きしめた。
「ごめ……たっくん、本当にごめん」
「許しませんから…俺に、あんな嘘つくなんて、本当に…」
「悪かったよ……でもああするしか、なかったんだ」
「俺の気持ち、絶対にわかってたくせに!俺だけが、こんなにも先生が好きで……」
「うん……嬉しかったよ。たっくんのそばにいられて、幸せだった。でも、このままじゃいけないって思ってたんだ…本当にごめんな……」
「先生、本当に……もう勘弁してください」
こみあげてくる涙が止まらなかった。
杉浦の身体に顔を埋めている間、杉浦はずっと頭を撫でてくれていた。
「そっか」
「……なんですか」
「今日は、卒業式なんだなぁって思ってさ」
「そうですよ」
「うん、俺も、卒業しなくちゃな」
その言葉に、杉浦を一層強く抱きしめた。
これから何度だって抱きしめあえるのに、二人はなかなか離れずにいた。
今までの時間を取り戻すかのように、いつまでも、抱き合っていた。
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