第九章:もうひとつの嘘

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「だから、俺は最低なんだよ……」 「違います。先生、俺も同じなんです。あんなに苦しい思いをしたのに、慰めてくれて優しくされて、立ち直るどころか、もう手放したくなくなって…」 「たっくん……」 「先生の好きな人は……誰なんです、か」  杉浦の両肩を掴み、その小柄な体を揺すった。 「誰って……」 「俺から言いましょうか?俺は大声で言えますよ」 「たっくん…」 「お願いです。ちゃんと、言って、くださ……い」  すがるように、頼むように、どうしてもその気持ちが知りたくて、杉浦の目を見つめた。  そんな自分を見て、穏やかに笑ってくれた。 「俺はたっくんのことが好き……になってた」 「先生……」  その体を引き寄せ力任せに抱きしめた。 「ごめ……たっくん、本当にごめん」 「許しませんから…俺に、あんな嘘つくなんて、本当に…」 「悪かったよ……でもああするしか、なかったんだ」 「俺の気持ち、絶対にわかってたくせに!俺だけが、こんなにも先生が好きで……」 「うん……嬉しかったよ。たっくんのそばにいられて、幸せだった。でも、このままじゃいけないって思ってたんだ…本当にごめんな……」 「先生、本当に……もう勘弁してください」  こみあげてくる涙が止まらなかった。  杉浦の身体に顔を埋めている間、杉浦はずっと頭を撫でてくれていた。 「そっか」 「……なんですか」 「今日は、卒業式なんだなぁって思ってさ」 「そうですよ」 「うん、俺も、卒業しなくちゃな」  その言葉に、杉浦を一層強く抱きしめた。  これから何度だって抱きしめあえるのに、二人はなかなか離れずにいた。  今までの時間を取り戻すかのように、いつまでも、抱き合っていた。
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