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二人が抱き合っている間に夕闇が訪れ、それでもまだ和田は杉浦の体を離したくはなかった。涙はいつまでたってもとめどなく流れてくるのは、今が悲しいからでも辛いからでもない。感激と嬉しさと安堵が一気に和田を包んでしまったせいだ。
「ほら、たっくん、明日もあるし」
和田の頭をぽんぽん撫でながら、語りかけてくれる杉浦の優しい声音を聞いて、また目頭がじんわりと熱くなってしまう。
「……したくありません」
「ん?何?」
「先生を、帰したくありません」
これが夢だったらどうしよう。もし、ここでお別れして明日になって、再び冷たくされたら、今度こそ自分はどうなってしまうか、わからない。せめて、杉浦が自分のものだと確証が欲しい。
「じゃ、たっくんの家に行けばいいの?」
抱きしめていた腕を緩めて、杉浦の顔を見れば、その顏は優しく微笑んでいた。
「いいんです、か?」
「いいよ」
まだ信じられないといった顏のままの和田に杉浦は吹き出した。
「こんなとこで抱き合ってるよりはいいだろ。ほら、帰るぞ」
ぽんと腕を叩かれ、我にかえる。
和田は、歩き出した杉浦の半歩うしろを追いかけるように歩いた。
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