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「だから別れたいって言われたとき、なんかの聞き間違いかと思った。でもそのときはもう、あいつの気持ちはとっくに俺から離れてたんだよな。そばにいることがつらいって言われたら、俺には何もできない」
「そうですね……」
かつての自分を思い出していた。
あのとき、要のそばにいたかった自分。要にとって一番になりたいと思った自分。そして自分が要を一番幸せにできると信じて疑わなかったあの頃。
「たっくんが言ったとおりだと思うよ。俺は認めたくなかったんだ。別れたことを誰にも言わないでくれだなんて、児童のためのような言い方をして、結局、俺は自分のことしか考えてなかったんだ」
自分を責めていても、その声は優しかった。きっと杉浦の中で、そのときの自分のことを認めているからだろう。
「けど児童はきっと……」
「いや、帰るみのりに挨拶してから、教室に戻ってきたあいつらに言われちまったんだ。『先生もみのりんから卒業してね』だとよ」
「あ……」
そういえば楠木に群がる児童が、『スーギーを置いて行かないで』と言っていたことを思い出す。児童たちは気づいていた。けど、楠木のことだけじゃなく、杉浦のことも心配だったのだと思う。
二人は、たとえ付き合ってはいなくても、児童から愛される存在だったのは間違いないだろう。
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