第十章:貴方の隣で咲く花になりたい

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「たっくん、あいつの恋人にも会ったんだろ」 「はい……楠木先生が、学校に挨拶にいらっしゃったときに」 「あの看護師、本当にいいやつなんだ。俺たちが別れてから半年くらい経ってからだったかな。 『みのりさんとお付き合いしたいのですが』って言われたときは驚いたけど、でも少し安心した俺もいたんだ。みのりも、俺には言えないワガママも、看護師相手なら言えただろうと思う。 あの二人がくっついてくれてよかったって今ではそう思ってる」 「……」 「本当だって」  眩しそうに笑う杉浦を、和田は直視できなかった。  かつての恋人が新しい相手と幸せそうな姿を杉浦が見るのと、和田が、要と純太郎が一緒にいるところを見ているのと同じ気持ちだっただろう。  あの痛みを知っている。だからこそ、つらかっただろうと思う。自分たちは時期が違えど、同じ痛みを知っている。 「だからたっくん見てたら、なんかしてやりたいって思ったんだよ。俺は一人で乗り越えるしかなかったけど、聞いてくれる誰かがいたらもうちょっと早く立ち直れたかもしれないなって」 「先生のおかげで早く立ち直れたと思います」 「それならいいけど。でも、誤算だったのは、たっくんのことがますますほっとけなくなっちゃったことだな」  杉浦が和田の顔を見て柔らかく笑う。その笑顔に、どきりとする。 「たっくんがとにかくあの頃の俺に似てたんだよな。俺は、もうあいつのことがあってから、何もかも嫌になって投げ出しちゃって、いい加減で生きていこうって思ってたのに、たっくんみたいな真面目で誠実なやつの面倒みることになって、そのとき自分がしてもらいたかったことを全部たっくんにやってあげたくなって、気づいたらあいつのことなんて忘れかけてた」 「俺は甘えるばっかりでしたけど……」 「たっくん、かわいがればかわいがるほど、すげー懐いてくれるし、本当にかわいくて参った。抱かれることなんて初めてだったけど、たっくんならなんでもさせてやりてーって思った」 「やめてください、そんな……」  思わず、顏を覆う。  杉浦が自分のことをこんなに愛してくれていたなんて知ったら、確かに思い当たることは山ほどあるが、ここまでとは思わなかった。じわじわと実感がこみあげてきて、顔がにやついてしまう。
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