番外編①:愛されたい、ただそれだけ

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番外編①:愛されたい、ただそれだけ

『俺は別に後悔なんてしていない。おまえはどうなんだ?』 ――要? そうか、またあの夢か。  和田拓海は、ゆっくりと身体を起こし、枕元にあるはずのスマホを手探りで触れ、表示された画面でまだ午前四時だと知る。  獅子ヶ谷要を初めて抱いたときの光景を時々夢に見る。要は妹をヤリ捨てた男で、気づけば憎しみが愛情に変わっていて、ずっと想い続けた要とやっとの思いで繋がったあの日。要がいつもより弱っていることを知っていて、自分から仕掛けた。本当に自分はずるい人間だと事が済んでから罪悪感に包まれたあの瞬間、要にかけられた言葉は、あまりにも男らしすぎて、かえってみじめな気持ちになった。  心のどこかで想っていても必ず叶うわけではないとわかっていた。けれど、想い続けた気持ちに自分でピリオドを打つ勇気がなかった。好きでいてもいいのか、なんて迷ったらダメだと自分に言い聞かせていたあの頃――。 「どうした?」  同じ布団の中から、かすれた声で問われる。 「ごめんなさい、起こしました?」 「うなされてたみたいだから、またあの夢見てんのかなって」  心を許した相手にはすべてを話してしまうのは、自分のよくない癖だとわかっている。ただ、それを受け入れてくれるだけの大きな器の相手なら包み隠さず話すことが愛情表現ではないか。なぜなら恋人の杉浦光毅はすべて受け止めてくれるから。  昨夜も平日の夜だというのに何度も求めてしまった。応えてくれるのが嬉しくて朝方まで抱き潰し、ようやく眠りについたところだったのに。 「たっくんって単純で単細胞で一直線のバカで」 「ひどいな」 「あと、いつも自分の存在を確かめていたい臆病者だよね」 「……否定はしません」  そんな自分を杉浦が受け入れてくれたことがにわかに信じられなかったりする。ちょっかいを出してきたのは杉浦だったけれど、それは悩める後輩をほっておけないという職場の先輩としての行動だったわけで。  だから本当に愛情なのか、この関係は長く続くのか、続けたいと思っているのは自分だけじゃないのか、を確かめたくなってしまう。信じていないわけではない。わかっているからこそ、再確認することで満ち足りたい。  ふと要との過去を思い出してしまうのは、受け入れてくれたと安心して本当にいいのか、と自問自答するための定期的な警告だったりするのだろうか。 「時々思うよ。俺は何をしたら過去を上書きできるのかなって」  思わぬ言葉に驚く。
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