第十一章:恋をすると盲目になる

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第十一章:恋をすると盲目になる

 ピピピピ……。  枕元の携帯のアラームが鳴る。寝起きのいい自分は、最初の数秒で目が覚める。学生の頃から朝練時代に染みついた早起き癖は大人になってもそのままだ。  ぐるんと体を起こし、アラームを止め、夜中のうちに届いているメールを確認する。 「うー……」  自分が動いたせいだろう。隣の塊がもそもそと動き始める。ダブルベッドの布団の中で、長い腕が腰に絡みついてくる。 「まだ、寝てていいよ。俺は準備するけど」  その声に抗いたいのか、腰に絡まっている腕はさきほどより強く、自分の腰を抱き寄せてきた。その衝撃で眺めているスマホの画面が目の前で揺れる。それでも抵抗せず、やりたいようにさせておくのもいつものことだ。意思を持った手はもそもそとTシャツをめくりあげながら背中にキスを降らせる。このままだと布団の中で着ているものが全部?がされていくのは時間の問題だ。 「おーい。くすぐったいって」  それでも画面を見続けていると、その塊についに起き上がり、のしかかってくる。手首をシーツに縫い止められ、上から見下ろすその表情はむくれていて、何かを言いたげだ。 「だめ。しないよ」 「えー」 「出勤の日に、朝からエッチはしない約束でしょ」 「はーい」  わかりやすくしょげるその塊の頭をなでてやると、表情は一変して、今度は嬉しそうに杉浦の掌に頭を摺り寄せてくる。自分は、この年下の彼氏を甘やかし過ぎている。それをわかっていながらも、再び抱きつかれるのを許してしまうのだ。 ***  杉浦光毅が、後輩である和田拓海と付き合い始めたのは、担任する六年生の卒業式の夜で、つい三ヶ月ほど前のことだ。去年の春に新任教師として赴任してきた拓海の印象は、とにかく生真面目で素直な好青年だった。何事も一生懸命に取り掛かるし、面倒臭がる自分にだめですよ、とたしなめるほどの正義感も備えている。このときの自分はいろいろあって、毎日を適当に過ごしていたが、拓海のひたむきな姿勢に、自分がまだ何事にも一生懸命だった頃を思い出して、懐かしく感じていた。自分の姿を重ねて、ほっておけなくなったというのもある。
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