第十一章:恋をすると盲目になる

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「話はそれだけ」  この場を一刻も去りたい。その一心で背を向ける。 「待ってください」  小さく拓海の声が引き留める。やっぱり嫌だと言われたら、自分はなんと答えるつもりなのだろう。 「何?」  後ろを振り返らず、扉に手をかけたまま返事をした。 「具体的にはいつまで、ですか?」 「……たっくんがちゃんとするまで」 「それは杉浦先生から見て、ですか?」 「そうなるな」 「メールも駄目ですか?」  何かつなぎ留めておきたい。今までと変わらない何か、恋人であることのつながりを残したいのだろう。 「自分で考えろ」  それだけ告げて、扉を開けて外に出た。もうあんなかわいそうな恋人の姿を見ていたくなかった。 ――でも、こうするしかなかった。  恋人になる前の和田拓海という男はちゃんとしていた。自分と付き合ったせいで、ダメになっていく彼を見ていられなかった。自分のせいで彼の教師人生を汚したくはない。自分さえいなければ彼はちゃんとできる。  だから今は自分から離れて、元の和田拓海に戻ってもらうだけだ。それだけだから、と言い聞かせ、自分の部屋に戻った。
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