第十一章:恋をすると盲目になる

6/7
前へ
/160ページ
次へ
 それから一週間ほどが経過した。二人が距離を取るようになって、拓海は徐々に元の好青年で優等生な一面を取り戻しつつあった。同僚の佐藤からも「和田先生、調子戻ってきましたね」との言葉をかけられ、あの選択は間違っていなかったのだ、と実感した。  最初こそ、当たり前だったお互いの家の行き来がなくなり、ぽっかりと穴が空いたような日々を送っていたが、自分は春から一年生、拓海は二年生のクラス担任をしていることもあり、仕事の忙しさがその寂しさを埋めてくれた。  そして今日から教育実習生を迎える。毎度ながら、通常の業務に加えてその実習生のサポートをするので楽ではない。しかし、これから小学校教師として生きていく彼らのためには大事な時間でもある。 「というわけで今日から2名の実習生が学びに来ております」  教頭の隣には大学三年生の男と女の二人組が緊張した面持ちで立っている。まだあどけなさが残るショートカットの小柄な童顔の女性と、一方、その隣に立っていた男性に、目を惹かれた。身長は自分と同じか、少し低いくらいで、眼鏡をかけてはいるものの、どこか冷めていて、愛想はないが聡明そうな顔立ち。不思議な既視感を覚える。彼のようなタイプをどこかで見たような気がするのだが――。 「短い期間ですがどうぞよろしくお願いします」  女性の締めの言葉で、ふと我に返る。目の前では女性が深く頭を下げていた。当たり障りのない挨拶だったせいか、自分は聞き逃していたが周囲の教師は温かい拍手を送る。 「では続いて、北条くん、ひとこと自己紹介を」  女性の挨拶の間、ずっと彼を見ていたが、表情ひとつ変えず、むしろつまらなさそうな表情を浮かべて聞いていた。いったい、どんな挨拶をするのだろうか。
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2003人が本棚に入れています
本棚に追加