第十一章:恋をすると盲目になる

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「北条海人です。自分はイマドキの小学生があまり好きではありません。ですが、この実習を通じて、小学生が好きになれるかどうかは、皆様にかかっていますので、よろしくお願いします」  堂々と喧嘩を売る態度に、隣の教頭の眉がぴくりと上がるのを見逃せなかった。周囲の教師も不穏な空気を感じたのか、一瞬戸惑ったのち、先ほどの女性と同様に彼にも拍手を送る。  ふと拓海の表情を見れば予想通り、険しい顔をしていた。それはそうだろう。拓海の真面目な性格からすれば、あんな挨拶をする人間を許すはずがない。 「では、北条先生が児童を好きになってもらえるよう、和田先生は熱血指導をお願いしますね」  教頭も拓海の表情に気づいたのか、みんなの前で指名された。 「はい、ぜひ僕にやらせてください。北条さん、よろしく!」  拓海の熱のこもった挨拶を受け流すかのように、北条は軽く頭を下げた。自分が担当だったら、適当にやり過ごすだろうが、拓海の性格だとまっすぐ向き合おうとするだろう。この分だと先が思いやられる。 ――そうか。要くんに雰囲気が似てるんだ。  ふと気づいたのは、自分が抱いた既視感だった。要、とはかつて和田が想いを寄せていた同級生で、彼のように同じように愛想はないが、どこか気品に溢れ、賢そうな印象を抱く。  かつての思い人と似たタイプの実習生に拓海は何を思うのだろう。今は、それを聞ける距離感ではない。まずは好きなようにやらせてみて、行き詰まるようなら救いの手を差し伸べたい。それはもちろん先輩教師として、だけれど、その手を拓海はどう受け取るだろうか。 つづく…
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