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「けど忘れないで、要を幸せにできるのはきっと俺だけだよ」
「拓海……」
獅子ヶ谷要(ししがやかなめ)は心配そうに瞳を揺らした。
「だから背中を押すのも俺の役目なんだと思う」
見つめ合っていた要の両肩に手を乗せ、くるりと背を向けさせた。
「行っておいで、要」
「え……」
「もう迷ったらだめだよ。諦めちゃだめだよ」
背中に届いた自分の声をかみしめるように、要は扉を開けた。
じわりと浮かぶ涙を見せたくなくて、顏を伏せていると、要は肩越しにこちらを気にしている。何か言いたいことがあるのだろう。
けれど、今はそれを聞いてはいけないと思った。今、自分がするべきことは、要の背中を押してあげること、好きな人のもとへ送り出してやることだ。
「早く」
「拓海……」
「早く、行って」
「う、ん」
扉が閉まる音がした。
最初からわかっていたんだと思う。
たとえ、体を繋げたとしても、要が自分のものになることはない、と。
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