第四章:優しさを持った小悪魔

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 いつもと変わらない今日がやってきた。いつも通りに起きて、学校に向かう。唯一、違うのは、欠勤届に風邪と書くべきだろうか、どうだろうか、と少し頭を悩ませたくらいだ。  職員室に足を踏み入れた自分を、その場にいた先生たちが一斉に見た。そして、誰もが「おはよう」といつもと同じ挨拶に少しだけ優しさをのせて声をかけてくれた。 「心配かけてすみません」と頭を下げ、席につく。いつもと同じように、授業の時間割チェックをする。 「おはよ、たっくん」  振り向けば、そこにはジャージ姿でけだるそうに歩いてくる杉浦の姿があった。和田の隣の席に、ガタンと音を立てて椅子に座り、スマホを弄りだす。 「おはようございます。なんか面白いニュースありました?」 「んー、たまごっち新作発表、くらいかな」 「ああ、懐かしいな。たまごっち」 いつもと同じ一日が始まった。 「先生、大丈夫?」 「もうなおったの?」 「うん、もうすっかり元気になったよ」  違うのは、ほんの少しだけの心に余裕ができたことと、たった一日見なかった先生方や生徒が愛しく思えたこと。 「なんですか?」 「べーつに?おーい、おまえら、運動会の練習はじめるぞー」  自分を待っててくれた人がいると知った。  その人の背は小さいけれど、大きな人。今の自分は、十分すぎるほど幸せだと気づかせてくれた。  杉浦と笑い合う自分のクラスの児童を見ながら、和田は目を細めた。 「俺の居場所はちゃんとあるから、心配しないで。要」  いつか、そう告げられる日も近いと和田は思った。
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