海と彼氏とかき氷

3/16
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「田村、彼氏ほしいの?」 私は驚いて振り返る。休憩から戻ってきたんであろう川島くんが、私を見下ろしていた。っていうか独り言、聞かれてた。恥ずかしい。 「え?あ……。そう、かも……」 「ふーん」 川島くんは私の隣に並ぶ。 「彼氏つくればいいじゃん」 当然の指摘に、私は渇いた笑いを落とした。 「いや、そんな簡単につくれないでしょ」 世の中のカップルは、どうやって彼氏彼女になるんだろうか。私からすれば、一種のミステリーだ。大学生とかになれば、そういうのが分かるんだろうか。ふと私は疑問に思って、川島くんに訊ねる。 「川島くんは?彼女いる?」 川島くんはじとっとした目で私を見た。 「いたら毎日ここにいない」 「はは!そうだよね」 川島くんもほぼ毎日ここで働いている。よかった、仲間がいた。 「でも、ここで彼女見つけた人もいるよ?去年そういう人いたから。だから諦めちゃだめだよ!」 私は川島くんを励ました。私も彼氏いないんだから、同類だろって感じで失礼かもしれないけど。私がぐっと拳を固めると、川島くんは首を傾けた。じっと見つめられて、私は言葉に詰まる。 川島くんは、割と表情が読めない。接客業なのに基本、仏教面。でも仕事を覚えるのは早いし、結構器用で伯父さんに気に入られてる。私は川島くんがどう思ってるのか分からなくて『どうしたの?』という顔をする。川島くんがゆっくり口を開いた。 「じゃ、田村が彼女になってくれる?」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!