第2章 王都編 第34話

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「だが、そんな無理が祟って今度は奴まで死んじまいやがった。ステラ一人を残してな。それでもステラは親父さんの後を継いで、一人で何とか孤児院をやっていこうとしていた。俺は見ていられなかった。自分を犠牲にしてまで他人のことを助けて、それでも幸せなのか? もっと自分の幸せのために生きたっていいじゃないか。そう思ったら強引にでも借金の形に孤児院を奪えば諦めもつくだろうと考えたのさ。」  竜人にはこの男を責める気にはなれなかった。彼の気持ちは理解できたし、それが間違いだとは指摘する事が出来なかった。  彼は護りたかっただけなのだろう。他の何を犠牲にしても、ステラの母親が遺したたったひとつの忘れ形見を。 「だというのにいきなり現れたにーちゃんが、借金を返したと思ったら孤児たちの仕事まで用意して、ランド商会なんて後ろ楯まで出来ちまいやがった。これじゃ俺が馬鹿みたいじゃねーか。」  溜まっていたものを吐き出すようにジャックは語り終えた。 「ジャックさんはステラさんを護りたかったんですね。例えそれを本人が望んでいなかったとしても・・・・・・。」  竜人は、まるで今の自分のエリスたちに対する気持ちと同じだとこの男に感じていた。  ジャックは新しく来た酒を一口飲むとしばらく黙り込んだ。 「まあ俺の望んだ結末とは大分違っちまったが、これでステラも孤児院ももう心配は要らないだろう。その事についてはにーちゃんには感謝しているんだぜ、これでも。」  全てを語りすっきりしたような表情をジャックは浮かべていた。 「まあ俺の昔話はこれで仕舞いだ。悪かったな付き合わせちまって。」     
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