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しばらく海を見ていたら、ポケットに入れていた携帯が鳴った。
取り出すと、画面には、同期だった夏希(なつき)からのメッセージが表示されていた。
「久しぶり。栞、体調どうかな?今日、佑樹(ゆうき)と三井さんのお見舞い行こうって話てるんだけど、栞どうかな?」
意味がわからず、急いで通話ボタンを押した。
「わ!久しぶり!びっくり!」
「お見舞いって?」
「え?あ、ごめん!誰かからもう聞いてると思ってた!三井さん今、入院してるの」
「どうして!?」
「詳しくは聞いてないけど。一昨日、川田さんがお見舞いに行ったときには、元気そうだったらしいけど」
栞、三井さんとは仲良かったし、どうかなと思ってさ、と夏希は控えめに続けた。
私はずるい。
1人だけで泣いて。1人だけで逃げて。
三井さんはいつも笑っていたけれど、辛いことには前から気付いていたのに。
――杉崎!もっと気楽にやろうぜ!
三井さんは、いつも自分の辛さより、私の辛さを考えてくれた。そうして私を、楽にしてくれた。
なのに私は、何もしていない。
「私も行く!」
そう言って電話を切ると、筋肉の無くなった足で祖母の家へ走り出した。
祖母の家に着くと、庭に面した掃き出し窓から、レースの白いカーテンが外に向かって緩やかに波打っていた。部屋の中の様子が、ふわりと見える。
おばあちゃんが、椅子に座った母の頭を愛しそうに撫でていた。
私は立ち尽くしたまま、ポケットから携帯を取り出し、夏希に再び電話をかけた。
「もしもし……栞?」
「ごめん。私やっぱり明日にするよ」
「え?どうして?」
「今日、大事な用があって」
「そっか。……栞、少しは元気になった?」
「うん。ありがとう、夏希」
今日の私に出来ることに、1つ1つ向き合おう。
私はもうすぐきっと、大丈夫になる。
だってもう十分休んだんだから。
そろそろ私の休む番は、おしまいだ。
私は携帯をポケットにしまうと、掃き出し窓に向かってゆっくり歩き出す。
ふわりと小さな風が、潮の香りを連れて私の背中を優しく押した。
「おばあちゃんっ!」
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