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このトゥナーという町は、ドイツとデンマークの国境近こっきょうちかくに位置した山々に囲まれている、とても雪の多い町だった。町の人たちの交通手段となるのは、馬よりもトナカイが使われていて、雪に対する知識は多く、住宅も雪を想定した、街並みで造られていた。
そんな寒い町の貴族の家系に、ラースとニコラスは生まれ育ち、数年と歳月さいげつを重ねていった。母はとても愛情深い女性で、二人を分け隔へだてなく育て、いつもいつも微笑ほほえんでいるイメージのある人だったが、父親は、街一番の貴族きぞくという、その地位をかざしながら生きてきた男で、よく出掛けると言っては、女の所へ行く姿をラースは心から蔑さげすんだ目で父を見ていた。逆に、弟のニコラスは素直な優しい子で、そんな大人の事情じじょうなどは知る由よしもなく伸び伸びと母や兄に囲まれながら育った。ふたりは双子ではあったが一卵性いちらんせいではないので性格も顔も違い、ラースは少し吊り目でキリっとした顔立ちで、無口だからでしょうか、何故か暗いイメージのする子なのに対して、ニコラスは性格が温和おんわで、目がとても優しいしく、他人にたいしても尊敬そんけいの念を忘れたことのない、明るい子でした。
二人の兄弟は、とても頭がよく、ニコラスは勉強が好きで、将来は医者か教師になることが夢になりました。兄のラースは物理学などが得意で、自然の法則などに興味を持ち、よくオモチャなどを発明したりしながら物理を楽しんでいたのですが、人の行動心理もわかりすぎるほど、分ってしまう為、世の中にたいして疑心暗鬼ぎしんあんきに陥おちいる癖くせが多々あったのです。そんな時、弟のニコラスは、笑顔をラースに向け兄の気分を変えようとしてくれるのでした。ラースにとって、人としての大切なものを信じさせてくれる存在は、母と弟だけだったのです。ニコラスに対しても、ラースの態度は表面上冷つめたくはあったのですが、弟のニコラスは兄想いの良い弟で、いつもラースのことを慕したっていたのです。
【第一章】完
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