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「来ないな、先に乗ろう──」
何かしらザイードがごねて足を取られているのだろう。待てど暮らせど来ないザイード達を諦めてアサドは開いたままのエレベーターの扉を閉める。
下降を始めた静かなエレベーター内でアサドは咳払いを一つすると結んでいた口を開いた。
「さっきの話しはどういうことだ──」
「……唐突だな…」
「………」
アサドの隠ったような低い問い掛けにアデルは一言返す。
アサドはもう一度、喉のいがみを取るように咳を払う。
「言ってたことは確か」
言葉を口にする度に低くさが増す──
アデルは、はんっとその様子に軽く笑い返した。
「なんのこ…っ」
「──…っ惚けるな…っ…」
ガタリと揺れる機内。壁に押し付けられたアデルの体が前屈みに折れて崩れる──
脇腹に食い込んだアサドの拳がアデルの美しい顔を苦痛に歪めさせていた。
「……っ…鍛えてるやつの素手は凶器とかわらんだろっ…少しは手加減したらっ…どうなっ──」
痛みに声を苦し気に絞るアデルの胸ぐらを片手で掴むとアサドは強引にアデルの顔を上げさせて睨み据えた。
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