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明らかに不機嫌も露な表情──
機嫌…
どうやってとるのっ?
ザイードは戸惑いながら自分を見上げてくる愛美から不意に目を逸らして歩き出していた。
だが言葉はないものの、手だけはしっかりと握られている。
少し引っ張るように歩き前を進むザイードは微かに口を強く結んでいた。
「あ、もう少しゆっくり…っ…」
「……っ今は何も言うな!」
よたよたと引っ張られて着いてくる愛美に背中を向けたままザイードは怒鳴った。
そんな剣幕のザイードに愛美は困り果てた顔を浮かべるしかなかった。
だいぶ先を行くアサド達は通路の角を曲がり姿が見えなくなってしまった。
ザイードは急に足を止めて愛美を振り返った。
「あの時に何もなかったと言わなかったかお前はっ…」
「……あの時って…っ」
ザイードの久し振りに見せた表情に愛美は少し怯えていた。
ザイードは愛美の腕を掴んで詰め寄った。
「宿でアデルに襲われた時だっ…あの時何もないってお前は頷いた筈だ! 何か隠してたのか!」
「ち、違…」
愛美は怯えながら首を横に振る。相変わらずの迫力だ──
こういった時のザイードの剣幕はやっぱり何度見ても慣れるものじゃない。
ザイードは怖がる目を向ける愛美にふと瞳を切なく細めた。
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