21章 親善大使の公務(前編)

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・ ホテルの正面玄関に横付けされた一台の長い車。先に乗っていたアサド達の後ろにザイードと愛美は乗り込むと黒いリムジンは滑るように走り出した。 「……っ…」 「どうしたマナミ…」 ザイードが心配そうに声を掛ける。 愛美は緊張していた。 「いや、あの…っ」 何気無く乗っちゃったけどあたしも付いて行っていいのだろうか── あたし──…っ…一般市民なんですがっ!? 初めて乗った超高級車のリムジン。 愛美は王族の衣装を纏ったザイード達を見回し次第に緊張感が張り詰める。 「──…!」 堅くなる愛美の膝に置かれた手の上に、ザイードの手が重なりぎゅっと力が込められた。 「これからはこれが当たり前になってくる──…」 「………」 小さく口にして不安な愛美を覗き込むとザイードは前を向き直った。 これからは…… 愛美はザイードの言葉を脳裏で復唱する。 王子のザイードの妃になればこれが当たり前になってくる。 愛美はゴクリと唾を飲み、前を見据える。 ザイードは愛美の上に置いた手を今度は絡め取るように握り締めていた。 ぎゅっと何度となく力を込めてくるザイードに少し緊張感が和らぐ── でもあたし、普段着なんですけど… 会場に着いた途端に愛美はザイード達の正装と自分の服装の違いにハッとして、思わずスモーク張りの車の窓から身を隠してしまった。
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