21章 親善大使の公務(前編)

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・ 「マナミ──…どうか俺の妃になってほしい──」 「──…っ…」 初めて聞いたようなその声音に愛美はゆっくりと目を見開いていく── 瞳を閉じて握っていた愛美の手に祈るように額を預け、ザイードは口にする。 「……木々が実り豊潤を迎える時も──… 葉を落とし身ぐるみが乏しくなろうとも──… お前だけにはひもじい思いは絶対にさせないと神に誓う──」 「………っ」 「どうか…俺の傍に…生涯の伴侶として付き添うて欲しい──」 想いを告げたザイードの声は詩となって紡がれ愛美の耳に流れ込んでいた…… ザイードは顔を上げてもう一度愛美の額に唇を当てる。 そして震えて歪む愛美の唇にそっと口付けた。 我慢しきれずに歪む愛美の頬を目尻に滲んだ涙がゆっくりと伝い落ちる── 「泣く前に返事を聞かせてくれ……」 ザイードは優しく笑いながら愛美の涙を指で拭いまた唇を押し当てていた。 「付いてきてくれるか…」 問い掛けながらちゅっと吸い付く音が響く。 「お前が傍に居ないと俺はゆっくり眠ることができない──」 唇を離しては熱い吐息が頬に掛かる。 「離れているお前を求めるのはもう懲り懲りだ…っ…」 「……っ…」 少しずつザイードの声が切なさで掠れてくる。 「マナミ……」 「………」 「頼むからいつも触れられる距離にいてくれっ……」 こと切れたようにザイードの優しかった唇が荒々しく愛美の唇を塞ぎ熱い息が漏れる。
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