3.X、Y、Z

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 虎子の間違った恋愛教室のせいで、P博士の研究所から出発するのが少し遅れてしまった。 「私の研究所は研究所で一つのフィルムの中にある。いくつもの作品が混ざり合っているとはいえ、他のフィルムの中に行くとなると、それ相応の時間と手間がかかる」  P博士はそう言って表に転送装置なるものを用意する。これもP博士の発明、いや、大元は作者である星村がかつて、考えた代物だ。 「これを使えば、Y氏達のところにいけるが・・・。まだ未完成品で、三人がそれぞれいる、どのフィルムに飛ぶか調整ができていない」 「つまり、あたし達、三人。それぞれ、どのフィルムの場面に到着か分からないってことね」  虎子は楽しそうに笑みを浮かべている。トコリコが過去に会った相手を模した連中が転送装置の先にいるというのに、ずいぶんな余裕であった。 「虎子。油断するな。俺達が知らないとはいえ、以前にトコリコが前に相手した連中なんだから」 「分かってるわよ。アルテミスの社長もいたことだし。油断はしないわよ」  口ではそう言っていたが、虎子は余裕のままだ。色上だって、結局は虎子が一人で圧倒したのだ。それに、トコリコが過去に出会ったことがある相手ということは、彼は全員に全勝しているということ。今更、負ける気はしない。 「それじゃー!ネロ様!さっさと、片づけて映画デート再開しましょうね!」  水兵風の姿から戦闘時の姿である海賊風の衣装である海姫に変身したキャロンが笑顔を浮かべてネロに手を振っている。それに対して、ネロは微妙な笑顔で手を振り返した。 「まあ、私も含めてだけど大丈夫でしょう。そのY氏達を止めるのは」  一応、ピースだけは現実的な言い方を含めて言う。油断だけはしてはいけない。ここは、今までの世界とは違い一人の人間によって作られた話がごちゃ混ぜになったようなところ。常識外のことが起こっても不思議ではないのだから。  ネロを除く虎子達が転送装置に入るとP博士は装置に取り付けられたボタンを押す。そのあまりに単純な操作方法に些か不安が過ぎったが、ここは創作の世界。星村は転送装置の操作手順について、あまり考えていなかったのだろう。
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