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虎子は楽しそうに言うと、シャベルを振り回し構え、臨戦態勢をとる。異世界で戦うことは経験してきたが、まさか、映画のフィルムの中でも戦わされるとは虎子も思っていなかった。
「やっぱり、一緒に行動してきて正解だったわ」
シャベル一本だけで虎子は無数の泥人形を相手に獅子奮迅の戦いをしにいく。いや、虎子の場合、虎狼之国の如く、敵を一掃に乗り出した。
いくつもの町が混じり合ったような場所に放り出されたのはキャロンだった。彼女は、虎子が言っていたアルテミスと呼ばれる高層ビルを目指して、建物の屋上を走り回っていた。
用心なのか、故意なのか。キャロンがここに着いた直後から、敵の奇襲に遭っていた。
『本日は平和記念日です。平和記念日です。皆さん、平和を噛み締めて過ごしましょう』
ビルのスピーカーからは壊れたような音声が延々と繰り返し流れていた。“平和記念日”などと謳ってはいるが、現実は全然、違っていた。平和記念日だというのに、多くの人が武装しキャロンを襲う。『平和記念日』という話とは、無縁の作中に登場する人々なのだろうか。
そして、キャロンが屋上を使って移動しているのにも訳があった。始めは地上を走ってアルテミスを目指そうとしたが、どこもかしこも罠だらけで進めそうになかった。元から存在しておりキャロンを足止めするのが目的ではない。建物に近付こうとする相手、その全てを対象としていた。有刺鉄線は当たり前で、獣用の罠から地雷、レーザーガンまである。キャロンのように大砲の力を利用して罠を避けて屋根まで跳べる者はいいが、ほとんどの人は罠にかかり死んでいく。
「懐かしき我が故郷を取り戻せー!」
もう無茶苦茶だ。
『懐かしき我が故郷』を合い言葉に、宇宙服を着た集団までも出現しキャロンを執拗に狙って攻撃してきた。このまま、地上にいては厄介と思い、屋上を使っての移動をすることにしたが、どこまでも敵は追ってくる。それも、正確にだ。
どうして、地上から民家の屋根や屋上を走る自分の姿が見えているのか、キャロンはさすがにおかしいと思い走りながら周囲に目を配る。すると、壁を移動している影が見えた。影なのでキャロンを攻撃する手段を持ち合わせていないが、彼らは走るキャロンをジッと見ていた。確かに影なら、どこまでも追ってくることができる。
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